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侮辱と心配―新型コロナ感染症がソロモン諸島国へもたらした変化

2020.09.11

著者:藤井 真一(国立民族学博物館、文化人類学、オセアニア地域研究)

大洋州 文化人類学オセアニア地域研究

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マライタ州都のアウキで乗り合いバスに乗ったときのことである。後ろの席に座っていた女子学生から、小声で「コロナウィルスめ……」と言われた。こうしたことはマライタ州都のアウキだけでなく、首都ホニアラでもたびたびあった。大勢の人が集まる市場などでは、「コロナウィルス!」のような声を掛けられることが特に多かった。

ソロモン諸島で運行されている乗り合いバス。
日本の中古車が日常的な交通手段として活躍している。
(2019年8月12日藤井真一撮影)
乗り合いバスの車内には補助席が増設されており、一般的な乗車定員は15名程度。
(2019年8月17日藤井真一撮影)

帰国を間近に控えた3月13日、私はソロモン諸島国立大学の人類学者デヴィッド・ゲゲオ氏と面談するために、彼のオフィスを訪れた。オフィスを探してキャンパス内をさまよっていると、遠くから「コロナウィルス!」と叫ばれた。振り返ると、木の陰から数人の学生がこちらに顔をのぞかせている。当時、私自身も過敏になっていたのだろうが、この叫び声が耳に入ったときひどく不愉快な気分になった。ゲゲオ氏にこの出来事について話したところ、それは差別的な発言で大問題だといわれた。この出来事は、かつてのソロモン諸島であれば、扱い方によっては貝貨のやり取りを伴う和解儀礼が必要となるような侮辱的行為でもあった。このとき私は、これまでの研究成果を活かして、賠償としての貝貨を要求してやればよかったと思った。

三つ目のタイプは、これから日本へと帰国する私への心配である。当時、日刊紙『ソロモン・スター』の国際面で、新型コロナ感染症に関する記事が掲載されない日はなかった。特に、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大をはじめとして、日本における新型コロナ感染症の状況が連日報じられていた。その日本へとまもなく帰国する私に対して、友人たちはさまざまな言葉をかけてくれた。

「コロナに気を付けろ」という声だけでなく、「死ぬなよ」とか「日本に帰ったらもう二度と会えなくなるかも」とか、かけられた言葉はさまざまであった。過去10年間に何往復もしてきて、そのたびに別れの挨拶を繰り返してきた私と彼らのこれまでのやり取りとは少し雰囲気が異なる不思議な寂しさが、今回の別れの場面で我々を取り巻いていた。古くから見知っているものの、何度も訪問しているためか、最近は「また帰ってくるんやろ?」といって別れのときに顔を見せないようになっていた友人たちも、2020年3月に帰国準備のため首都へ戻る私のもとを訪ねてくれて、帰国後の私の身を案じるような言葉をかけてくれた。

さまざまな友人たちから心配されながら、私は3月14日にソロモン諸島を発った。そして、シンガポールを経由して、翌15日未明に羽田空港へと到着した。いつも行なっているように、電話やSNSを通じて調査地の友人たちへ無事帰国できた旨を伝えた。このときも、電話越しに「父親」たちから「コロナに気を付けて!」との声をかけられたことが印象に残っている。

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