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医療体制が脆弱なベトナムがどのようにしてCOVID-19に立ち向かっているのか?「対策優等生」の当地に暮らす筆者が綴る、かなり「厳しい」予防と対策の経験談。筆者は自宅隔離も経験してしまいました。
1.はじめに:「新型コロナウィルス対策優等生」に違いはないのだけれど……。
ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)が、「新型コロナウィルス対策優等生」として注目されていることは、みなさんご存知だろう。いわゆる先進諸国が近代医療技術をもってしても感染拡大を抑え込むことができずに、今や全世界で90万人近くの死者を出している現状において、ベトナムでは早々にウィルスの封じ込めに成功し、死者は未だ0名!と、当地でフィールド・ワークする者としてわたしはこのエッセイでベトナムの対策の「優秀さ」を、声高に自慢する予定だった。しかしその矢先の2020年7月後半、再び感染者がベトナム中部のダナン市で報告されてしまい、さらに初めての死者が出てからは、次々と不安が掻き立てられるニュースが続けざまに届けられている。自宅の窓から見える今日のハノイ市は久しぶりにどしゃぶりの雨が降っていて、この雨水がコロナウィルスを流し去ってはくれまいかと期待をかけつつ、以降では、わたしが経験しているベトナムでのCOVID-19の状況を紹介していきたい。
2.ベトナム概観
ベトナムは、中国、ラオス、カンボジアと国境を接する東南アジア大陸部最東端の国である。54の民族から構成される約9400万人の国民は、その約90%をキン(ベト)人が占める。彼らが暮らす国土は、日本と同様に南北に細長く、北部には紅河デルタ、南部にはメコンデルタが広がる土壌豊かな農業国だ。ベトナム戦争後に目覚ましい経済発展を遂げ、近年では人気の海外旅行先として、また技能実習生送り出し国としても注目を集めるようになった。ただし、その経済発展に隠れてつい忘れられがちだが、政治体制はベトナム共産党による一党体制の社会主義国であり、中央政府から地方行政の末端に至るまで、共産党の影響力が強く働いている。
わたしは、このベトナムをフィールドにして、主に女性と宗教のかかわりを調査するために人類学的フィールド・ワークを実施してきた。そして2017年4月からは、JICA(日本国際協力機構)の長期派遣専門家として首都ハノイ市に派遣され、当地に滞在して「日越大学修士課程プロジェクト」に携わっている(日越大学については、以下のHPを参照頂きたい。 http://vju.vnu.edu.vn/en )。つまり、フィールドでのコロナ経験真っ只中、といったところだろうか。
さて、こちらでの任務の内容についてもごく簡単に触れておくと、日越大学は2016年に開校したばかりの国立大学で、文理あわせて8つの修士課程プログラム(いわゆる学科)から構成される(2020年10月から学部も設置される予定)。わたしはその中の「地域研究プログラム」の教員として、プログラム運営や所属学生の教学に取り組んでいる。