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侮辱と心配―新型コロナ感染症がソロモン諸島国へもたらした変化

2020.09.11

著者:藤井 真一(国立民族学博物館、文化人類学、オセアニア地域研究)

大洋州 文化人類学オセアニア地域研究

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侮辱と心配
2月下旬に、首都ホニアラでの同居家族1名を連れてマライタ島へと移った。ランガランガの人工島で1週間の調査を行なったのち、残りの調査期間をガダルカナル島北岸部で過ごした。合計でわずか1ヶ月ほどの滞在期間でありながら、実にさまざまな人びとの「新型コロナ感染症への不安」を見聞きした。以下では、3つのタイプに分けて紹介したい。

一つ目のタイプは、未知の感染症に彼ら自身が感染することへの不安である。ソロモン諸島には、マラリアやデング熱といった感染症が存在する。これらの感染症は、蚊を媒介して感染することが知られているために、日が暮れた頃から蚊取り線香を焚くなど、感染予防措置をとることがたやすい。しかし、新型コロナ感染症は、その感染経路だけでなく症状や治療法に関しても憶測や不確かな情報が飛び交っていた。

とはいえ、首都であれ村落であれ、日常生活の中で新型コロナ感染症に対する過度の不安はほとんど聞くことがなかった。ソロモン諸島の日刊紙のひとつ、『ソロモン・スター』でも連日のように国外の感染情報が国際面で取り上げられていたものの、国内記事や投書などの形で新型コロナ感染症に対する現地の人びとの反応をうかがい知ることはほとんどできなかった。マスクを着用している人びとを見かけることもあまりなかった。

新聞は路上やいくつかの華人商店で販売されている。
写真は、ソロモン諸島国内の日刊紙のひとつ『アイランド・サン』。
(2009年11月26日藤井真一撮影)

二つ目のタイプは、アジア系の人間に対する侮辱的発言である。ソロモン諸島の人びとは総じて肌の色が黒いので、海外からやってきた人びとは見た目ではっきりと区別することができる。私がフィールドにいた頃は、新型コロナ感染症が中国から広まったこと、この感染症が世界各地で被害を拡大させていることなどが、ソロモン諸島国内でも新聞やインターネットメディアを通じて知られていた。この「中国から始まった」というのが曲者であった。

ほとんどのソロモン諸島国民にとって、私が日本人であるか中国人であるかは見た目で判断できない。これまでの10年間でも、「ワクー!」(アジア系の人びと、特に中国人に対する蔑称)と声をかけられたり因縁をつけられたりすることがたびたびあった。そういった場合、私はたいてい無視したり、「誰がワクーやねん!」と現地語で怒鳴り返したりしてきた。

新型コロナ感染症は、アジア系の人間に対する新たな差別的振る舞いをソロモン諸島の人びとの間に誘発したように思われる。

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