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侮辱と心配―新型コロナ感染症がソロモン諸島国へもたらした変化

2020.09.11

著者:藤井 真一(国立民族学博物館、文化人類学、オセアニア地域研究)

大洋州 文化人類学オセアニア地域研究

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太平洋諸島の国々と感染症
歴史を紐解けば、ヨーロッパによる植民地化が非ヨーロッパ世界にもたらした影響はいくつも挙げられる。その一つが、植民地域の人口減少である。銃などで武装したヨーロッパ人との戦いやヨーロッパ人による奴隷狩りなどによる人口減少もあったが、ヨーロッパ世界からもたらされた感染症もまた人口を激減させる要因となった。

ソロモン諸島国の南東に位置するヴァヌアツ共和国の例を紹介しよう。ヴァヌアツ共和国南部のアネイチュム島では、1820年から1920年までの間に人口が3,600人から200人にまで減少したと推計されている。同じくヴァヌアツ共和国南部のエロマンガ島では、19世紀半ばには約12,000人だった人口が1957年には約200人まで激減していたとの推計もある(大津留 2020: 150)。このように、太平洋諸島のような人口規模が小さい島世界において、感染症は文字通り絶滅の危機をもたらすものであった。

こうした状況は、21世紀になるとずいぶん改善されたと考えられるが、それでも太平洋諸島地域において感染症による死亡者の割合は高く、総じて15%から35%程度を占めている。これらのことから、太平洋島嶼地域での感染症に対する危機意識の高さを念頭に置いて、以下の文章を読んでほしい。

実は、2019年末に太平洋諸島で麻疹(はしか)の流行が問題となった。2019年12月中旬に、太平洋諸島の一部地域(アメリカ領サモア、サモア、フィジー、トンガ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン)からソロモン諸島へ入国する者には予防接種証明書の持参を義務付けるという水際措置が取られた(のちにパプアニューギニアとキリバスも追加された)。2020年1月中旬には条件が少し緩和され、予防接種証明書を持参できなくても入国が認められる代わりに、入国後に経過観察を行ない、発症後ただちに国立病院へ連絡することとされた。

出発直前での計画変更を余儀なくされたものの、私は2月9日に成田空港を発ち、翌10日にブリスベンへ到着した。この乗継のときは、検温などの手続きはなく、また搭乗口で待っていてもマスクを着用している人間はほとんど見かけなかった。ソロモン諸島国の首都ホニアラへ降り立つと、見慣れた入国審査場に間仕切りが作られており、入国審査の前に検温が行なわれた。入国手続きで提出する書類には「旅行者公衆衛生宣言書」が追加され、過去15日間の健康状態や過去21日間における感染者との接触状況などの記入が求められた。この書面を見る限り、当時の新型コロナ感染症に対する警戒は、麻疹に対する警戒とほぼ同程度であったと思われる。

2020年2月の入国時に提出を求められた「旅行者公衆衛生宣言書」。
麻疹や新型コロナ感染症に関する質問項目がある。
(2020年2月10日藤井真一撮影)
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