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侮辱と心配―新型コロナ感染症がソロモン諸島国へもたらした変化

2020.09.11

著者:藤井 真一(国立民族学博物館、文化人類学、オセアニア地域研究)

大洋州 文化人類学オセアニア地域研究

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太平洋諸島地域では2019年末から麻疹が流行しており、一部の国家では新型コロナ感染症の拡大に先駆けて特定地域からの渡航制限が行なわれていた。この状況の中で世界的な新型コロナ感染症の拡大が生じた。本稿では、新型コロナ感染症が私の調査地であるソロモン諸島国へもたらした変化を概略する。

はじめに
本稿では、2020年2月から3月にかけてソロモン諸島国でフィールドワークを実施していた私の経験を交えながら、新型コロナ感染症がソロモン諸島へもたらした変化について記す。とはいえ、この特集に含まれている他の記事が取り扱うような新型コロナ感染症の拡大に翻弄されるフィールドの様子を描くわけではない(本稿の執筆時点(2020年8月下旬)で、ソロモン諸島国内では新型コロナ感染症の感染者は1例も報告されていない)。むしろ、新型コロナ感染症によってソロモン諸島社会に生じた微かな変化について、フィールドで見聞してきたことを記すつもりである。

論点を先取りする形で、本稿のポイントを述べておこう。

第一に、ソロモン諸島国を含む太平洋諸島地域では、新型コロナ感染症の拡大が世界的に問題視されるよりも前に、麻疹(はしか)の流行に伴う渡航制限が行なわれていた。この措置が、太平洋諸島地域への新型コロナ感染症の蔓延を抑えた一因として考えられるであろう。

第二に、未知のウィルスに関する情報の少なさが、さまざまな形でソロモン諸島の人びとの不安を掻き立てた。見た目から明らかに外国人(特に、新型コロナ感染症の発生源と考えられていた東アジア出身者)だと判断できる私との関わりの中で、そうした不安は自分たち自身が感染することへの心配、私に対する侮辱的行為、さらには帰国後の私への心配という形で表現された。

ソロモン諸島国への入国
ソロモン諸島国は南西太平洋に位置する島国である。比較的大きな6つの島をはじめとして、大小さまざまな島々から構成されている。2019年時点の総人口は約67万人、そのうちの約8割は焼畑農耕や漁撈といった自給自足的な生活を中心としつつ、近代的な貨幣経済にも飲み込まれながら生活している。

2009年10月から2019年9月までの約10年間に、私は計9回の臨地調査を行なってきた。日本からソロモン諸島への渡航経路にはいくつかあるものの、航空運賃や乗継に要する時間などの理由から、私は一貫して隣国パプアニューギニアを経由しての渡航を繰り返してきた。

2020年2月8日に出発予定であった私へ、出発の3日前に航空会社から電話があった。担当者いわく「日本からパプアニューギニアを経由したソロモン諸島国への入国が禁止された」とのことであった。新型コロナ感染症に対する水際措置であった。このとき、「ソロモン諸島国へ入国する経路はオーストラリア経由だけが認められている」との情報を得たため、バタバタと航空券を取り直し、オーストラリア東部ブリスベン経由で渡航することにした。

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