2 / 4ページ
知らせを受けた時に乗っていた寝台列車は4人用コンパートメントであった。途中から赤ん坊を連れた母親が乗車してきた。見送りにきた赤ん坊の祖父にあたる人が、私たちの顔を見て、引きつった顔をした。おそらく中国人旅行客だと思ったのであろうが、その表情は忘れられない。その後は、その母親とお喋りに花が咲いた。私達が日本人であることを知った母親が先ほどのおじいさんに電話をかけて、こちらの事情を話すと安心していたようだった。
顕在化した東アジア人差別
1月ごろから中国を中心に新型コロナウイルスが猛威を振るっていると報じられるようになると、私を含めた東アジア圏の人々は差別に直面することとなった。これまでも街中を歩いている時には、「チンチュンチャン(東アジアの言語の音の響きから、東アジア人をからかう言葉)」と言った差別用語を投げかけられることはあったが、これが新型コロナウイルスの流行とともに悪化したように思われる。私も道を歩いている時に、中高生男子の集団が走り去りながら「コロナ、コロナー」と叫んで来たり、すれ違ったバイクの人からも、わざわざ「コロナー」と叫ばれたりした。路上を歩いていると、「中国人が来たから危ない、避けて」と眉をひそめながら友人の手を引く女性もいた。もちろん、そういった行動をしない人々の方が大多数で、こうした人々はごく一部であったことは断っておきたい。
最も印象的な出来事(と言うよりはショックな出来事と言った方がふさわしいだろうか)は、タクシーを降ろされそうになった経験であろう。ある日、知人の家に向かうためにタクシーを配車アプリで呼び、車に乗り込んだ。運転手が私の顔をバックミラー越しにチラチラと見ていると思ったら、数十メートル走ったところで車は停車。「この目的地まではいかないから降りてくれ」と言われた。乗車してからの運転手の挙動から、私が中国人旅行客だと思ってコロナウイルス感染の可能性を考えているのではないかと思ったため、私は説得することにした。まず、このアプリを使うような外国人は長期滞在しているはずで、私自身も1年以上ここに住んでいる、と伝えた。本当は半年ぐらいだったが、ここでは強調するために実際よりも長いということにした。最後に日本から来たことを伝えると態度が一変。このような経験は今までもあったが、日本人であると言うことで私自身も差別をしているような気分になり、非常に悲しくなった。その後も、その運転手は「中国人と顔が似てるんだね」「中国人は嫌いだ、倫理観がない」と言ったデリカシーの無い発言が目立ち、非常に不快であった。私はその度に「アジア圏の顔なんてみんな似ているし大して変わらない」「日本人でも、何人であっても悪い人は世界中にたくさんいる」「人種や国で差別すべきではない」と反論したが、態度を改めることはなかった。タクシー乗車後にはアプリ上で運転手の評価をつける機能があるのだが、あまりにも態度に問題があると思ったので、最低評価をつけた上で長文のコメントを書いた。翌々日ごろに運営会社から謝罪の電話がかかってきた時は驚いたが。これ以降というもの、タクシーに乗る際に「私はもう1年以上住んでいるから、怖がらないでね」と言って予防線を張るようになった。反応は様々だったが、「そんなこと気にしてないから大丈夫だよ」など優しく対応してくれる人がほとんどであった。
このような差別は日本人の友人のみならず、同じ寮で生活していた韓国の友人も同様の体験をしているという話を聞いた。同様にタクシーを呼んだ際、タクシーが近くに来たにもかかわらず彼女たちの顔を見るなり通り過ぎ、キャンセルされたという。