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感染拡大初期のタンザニアからの帰国

2020.08.07

著者:清家 多慧(京都大学人類進化論教室、霊長類学)

アフリカ 霊長類学

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タンザニア西部のマハレ山塊国立公園での調査中、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で調査を中断し、急遽帰国することとなった。以下は都市部から離れたキャンプ地で感染拡大状況を実感できないなか、急いで現地を後にした筆者の体験記。

調査地紹介:マハレ山塊国立公園
私は博士課程の大学院生で、タンザニア西部のタンガニーカ湖畔にあるマハレ山塊国立公園でアカオザルというサルの生態の研究をしている。アカオザルはオレンジ色で長い尾を持ち、木の上で生活をするサルである。ニホンザルよりも一回り小さく、まるでリスのように木々の間を走り回る。

マハレはチンパンジーの長期調査地であり、国立公園内に研究者の滞在する小屋(以下キャンプと呼ぶ)があって私たちはそこで生活する。少し離れた場所には現地調査助手たちの宿泊所があり、私たち研究者は毎朝調査助手と共に調査に出かける。

今回、私は博士研究の調査で2019年の9月から2020年の6月までのマハレ滞在を予定していたが、新型コロナウイルスの問題で急遽3月末に帰国することとなった。ここでは、日本に少し遅れてアフリカ諸国でもコロナが問題になり始めた初期に、日本に帰国することとなった経緯と体験を記録する。

マハレの通信環境
マハレには研究者が生活するキャンプから20分ほど歩いた場所に観光客が宿泊できる建物(以下、観光キャンプと呼ぶ)があり、そこではインターネットを使うことができる。私は1~2週に1度くらいはそこでメールを読むなどして外部の情報を仕入れていたが、調査助手たちはその近くで生活しているので、ほぼ毎日調査後にそこでスマートフォンを見たり電話を掛けたりしている。そのため、日本からの緊急の連絡は調査助手経由で私に伝えられることがある。観光キャンプ付近では観光客やスタッフ、国立公園局の職員などと会うこともあるが、普段の生活で調査助手たち以外の人と会って話すことはあまりない。

3月初旬
2020年2月末の時点で、キャンプには私と先輩研究者(以下Mさん)の2人が滞在していた。2月29日にはさらにもう1人、私の指導教員のNさんがマハレに入ったため、しばらく日本人3人のにぎやかな生活を送っていた。この時点でヨーロッパでの新型コロナウイルスの感染も確認されてはいたが、主には中国での感染が問題であったらしい。Nさん曰く、その時点ではタンザニアへの渡航に影響はなかったとのことだった。調査助手たちからも新型コロナウイルスの話題は全く聞かなかった。

3月16日、17日:タンザニア国内で初の感染者
16日の朝、Mさんが調査期間を終え、帰国に向けてマハレを出発した。私が調査後に観光キャンプまでメールを読みに行くと、在タンザニア日本大使館からタンザニア国内で初めての感染者が確認されたというメールが入っていた。

翌日には、感染者が出たという情報が調査助手や国立公園局の職員たちの間にも広まっていて、新型コロナウイルスの話題で持ち切りとなっていた。国立公園局の職員は、おそらく支給されたのであろう医療用マスクをし、「コロナが危ないから今は握手しちゃだめなんだよ!」という話をしていた。しかし、そこまで深刻そうな感じではなかった。

私も「ついにタンザニアにも来たか~」とは思ったが、感染者が出た地域とマハレが離れていることもあり、この時点でも「私が帰国する6月には収まってたらいいなー。それまでは人の少ないマハレに籠ってた方が安全だろうなー」くらいにしか思っていなかった。

3月19日:急転直下、調査の中断・帰国の決定
この日、私は普段通り調査に出かけたが、調査上の問題でたまたま一度キャンプに戻った。その時にキャンプの仕事をしてくれていた調査助手経由で、日本にいた先輩研究者(以下Iさん)からの連絡を受けた。内容は、「カメルーンが突然国境を封鎖し、帰れなくなった日本人もいる。タンザニアもいつどうなるかわからないから(もともと21日にマハレを出る予定だった)Nさんと一緒に清家も帰国した方がよいだろう」というものだった。私は急ぎチンパンジーの調査中だったNさんを探し、このことを伝えた。残念ではあったが、急遽調査を中断し、帰国することを決定した。

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