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州政府の報告によると、2020年11月の時点で、ミネソタ州に住むアフリカ系アメリカ人は白人の4倍、ラティーノ系は白人の5倍の確率でCOVID-19に感染するというデータがある1)。この数字は冬になってから感染者が急増する中で少しずつ変化しているが、感染率の人種的格差が縮まる様子はない。アメリカ先住民族のグループでは、感染者の15パーセントほどがコロナウイルスのために入院するというデータがあるが、白人は6パーセントに留まっている。ICU(集中治療室)に行く割合は10万人中、ラティーノ系は173人、ブラックは147人、先住民族は154人、アジア系は116人に対して、白人は19人と非常に顕著な差がある。ミネソタの人口の8割が白人なのだが、その中で2割を占める有色人種のコミュニティの中での感染率、入院率、致死率ともに白人との差が浮き彫りになっている。その背景には、新型コロナウイルス感染症の重篤な症状を発症するリスクを高めるとされる、糖尿病、心臓病、肥満などの率が有色人種に高いことがある。それは先天的なものではなく、医療へのアクセスの格差というものがアメリカの人種差別の歴史に深く根付いているからである。同時に、エッセンシャルワーカーをはじめ外に出て仕事をしなければならない人々の間で、コロナウイルスに感染するリスクは高くなる。それは食品加工工場、老人ホーム、スーパーマーケットや倉庫で働く肉体労働を中心とした低所得者、及び移民労働者たちである。ミネソタ州では、2020年の夏には、4人に1人のアフリカ系アメリカ人が失業手当を申請したとされ、その数は10月には10に1人と減ったが、白人の中ではその数は33人に1人とされている。パンデミックが始まってから、実に60%のアフリカ系アメリカ人、46%の先住民族が失業手当を申請したとされる2)。人種の格差は経済格差と直結しており、パンデミックによって及ぼされた経済的な困窮は今後も長期的に爪痕を残すであろう。
その他にも、反アジア系人種差別はパンデミックの当初からニュースになっていた。アメリカの大統領が率先してコロナウイルスを中国のせいにしたため、人々はフラストレーションをアジア人に向けた。当初まだマスクが一般的に使われていなかった時期は、マスクをしているアジア人は感染していると誤解されるのではないか、という恐怖もあった。アメリカではマスクをつけることに対する反発があり、ミネソタでは州知事が「マスク着用令」を7月末に発令して初めて着用が徹底された。日本では安倍首相が布マスクを全世帯に配布して批判を浴びていたが、アメリカではトランプ大統領がマスクの着用を拒否して分断を更に深めたのは呆れて言葉にならない。そんなマスク論争が続いた9月、プロテニスプレーヤーの大坂なおみさんがBlack Lives Matterの抗議運動の一部として、US Openの試合に勝つたびに、警察の暴力によって命を落とした人々の名前が書かれたマスクをつけてインタビューを受けていたのはとても印象に残った。
このBlack Lives Matterの抗議運動がアメリカ中、そして世界に広がっていく発端となった事件は私にも衝撃を与えた。パンデミックが多くの人々に経済的困窮をもたらし先が見えない中で、7月の終わり、アフリカ系アメリカ人の男性が警官に暴行を受け死亡する事件が起こった。私の住んでいる街から120キロほど北のミネアポリスで、その事件は起こった。ジョージ・フロイドさんの死は、残酷極まりない事件の動画がソーシャルメディアで拡散され、一夜にしてミネアポリス、セントポールを始めアメリカ中に抗議運動を巻き起こすこととなった。平和的な抗議運動が大半だったが、夜になると一部暴徒化し建物が破壊されたり、店からものが盗まれたりした映像は日本でも報道されたと思う。パンデミックの真っ只中の外出制限がある中で、多くの人々が抗議運動に参加した。それは、コロナウイルスに対する恐怖よりも、アメリカという国を蝕む人種差別というウイルスの方が多くの人々にとっては脅威だからである。アメリカでは、アフリカ系アメリカ人は白人の2倍以上の確率で警察に殺害されるという統計がある3)。その他にも、教育、雇用、医療、住居、財産など社会構造全体で人種の格差が根強く残っている。パンデミックが更にその格差を助長し、有色人種の人々を不均衡に追い詰める中で起きたこの事件は、教育の現場にも大きな影響力があった。ジョージ・フロイドさんの死は、教育を通して反人種差別を説いていくことの重要さを再確認させた。
おわりに
波乱の2020年はあと2ヶ月弱で終わるが、アメリカでは新型コロナウイルスの感染収束の兆しはなく、4年続いた分断政治の影響も今後長く続いていくと思う。アメリカは今、大きな変化の時期にある。アメリカの人口は、2045年には白人がマジョリティではなくなると予測されている。まるでその変化に抗うように、分断は深まっている。同時に、人種を超えた草の根運動が確実に広まっていることも事実である。ポスト2020の世界はもう、パンデミック前の「ノーマル」に戻ることはできないのだと思う。いや、戻ってはいけないのではないか。このパンデミックを機に、今までの社会のあり方を問い直し、新しい社会の仕組みや人と人との繋がり方を模索する必要性を感じずにはいられない。
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Minnesota Department of Health. COVID-19 Dashboard: Data by Race and Ethnicity.
https://mn.gov/covid19/data/data-by-race-ethnicity/index.jsp - ^
Minnesota Department of Health. COVID-19 Dashboard: Unemployment.
https://mn.gov/covid19/data/data-by-race-ethnicity/index.jsp - ^
Police Shootings Database by the Washington Post.
https://www.washingtonpost.com/graphics/investigations/police-shootings-database/