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マレーシアの感染拡大防止策
マレーシアの移動制限は日増しに厳しくなり、やはり警察に届け出ないと移動できなくなった。さらに外出には外出許可書が必要とされ、その許可書の発行は1世帯1人のみ、移動も家から10km以内という状況が2020年5月12日まで続いた。要請に従わない場合は罰金か6ヵ月以上の禁固刑、もしくは両方に課せられると、保健省のポスターには手錠のイラストが描かれたものもあった。
徹底的に感染者を見つけ出し隔離する方針をとったマレーシア保健省は、感染が疑われる人を訪問してまわったが、検査を受けるのが嫌だと逃走する人もいた。ホテルが隔離施設に充てられ、コンベンションセンターも急遽改築されて隔離施設となった。リタイアした元看護師らが復帰し、こうした医療体制を支えた。厳しい移動制限によって5月半ば時点で状況は収束しつつあるが、外国人労働者の間で感染が続いている。こうした人びとは労働・居住環境が良くなく、感染が疑われたとしても、様々な理由から申告するのが難しいのだろう。隔離施設に入った後、そこから逃げだす人もいたという。
経済対策と「ドラえもん作戦」
マレーシア政府は国内の感染が広がる前の2020年2月末、コロナショックによって落ち込んだ経済の刺激策を発表していた。そして3月末には、福祉・生活保障、企業への支援(従業員への給与補助等)として支出を追加し、収入の少ない国民に補助金が支給されることとなった。また大手銀行は、2月11日という早い時期に住宅ローンの支払い猶予措置を発表し、他の銀行もそれに続いた。電気・水道料金については、移動制限中の使用量の請求が停止され、同期間の使用料が半額~2%の割引となることが約束された。
女性家族開発省は、移動制限期間中に家庭内暴力が生じるのを懸念して、「ドラえもん作戦」を発表した。女性は家でも化粧をし、恥ずかしがらず、にこやかに、ドラえもんのように夫に話しかけましょうというものだ。市民の反発をうけてすぐ撤回されたが、なぜドラえもんが選ばれたのかは謎である。またマレーシアでは、風邪をひいたら白湯を沢山飲むと良いというが、保健相は、コロナを無駄に恐れる必要はない、白湯を沢山飲めば大丈夫だというような話をして、これも批判されていた。
人びとの暮らし
外食が一般的なうえにフードデリバリーサービスも普及しているマレーシアでは、多くの人がそうしたサービスを利用したり、WhatsAppというチャットアプリにお気に入りのレストランを登録しておき、そこにとどく「本日のメニュー」から食事を注文したりしていた。また大手通信会社はパケットの無料サービスを行い、SNS上では、パソコン画面にご馳走を映し出し、それを見ながらカップ麺をすする動画などが出回っていた。
バテッ以外のオラン・アスリ(半島マレーシアの先住民)はというと、昨年のバテッの麻疹の流行が知れ渡っていたこともあり、村の入り口に障害物を置いて外部者が入れないようにする村もあった。森に逃げたバテッの皆は2020年4月半ばには村に戻ってきたようで、森で大きな魚を獲って楽しんだ写真が送られてきた。彼らはラタンなど国際市場に供給される森林産物の採集によって現金を得ている。今後の世界経済の行方は、彼らの生活にも影響を及ぼすかもしれない。