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とはいえ、二度の外出禁止令は特に飲食業界に大きな打撃を与えており、廃業した飲食店も多い。こうした状況の中でもしばしば新規開店する飲食店を見かけるが、いずれも宅配や持ち帰りが比較的容易なハンバーガー屋やケバブ屋などで、店内での飲食行為に付加価値を与えるようなタイプのレストランやバーなどは苦境を強いられているようであり、飲食業界はかなり大きな変化を経験しているのではないかと思われる。エミノニュなどの外国人観光客の多い地区では闇営業するカフェも存在しており、筆者も観光地付近を歩いていた時に何度か客引きに声をかけられた。
3月初めに再び店内営業が解禁されると、長い間外食を我慢していた人々がこぞってレストランやカフェに繰り出し、特に週末にはまるで新型コロナウイルスが克服されたか、最初から存在していなかったかのような光景が広がる。通常の5割以下の稼働率という規制が設けられているにもかかわらず、そもそも席が減らされている様子のない店や、元から利用者の少ない「店内」の席数を大幅に減らし、代わりにテラス席の数を増やして営業しているようなところもあり、政府によって設定されている条件はあまり徹底されていない印象である。
人々の行動を見てみると、スプレー式の消毒などに使われる香料入りのアルコールであるコロンヤが外出時の必需品になっていたり、罰則が課されているとはいえほとんどの人が外出の際にはきちんとマスクをつけていたりするなど、感染予防への意識は高くなったように見える。しかしながら一方で、通勤通学時にかなり混雑する公共交通機関で社会的距離を保つために利用禁止の文言が書かれた座席にも平気で座る人や、外出できない週末にはわざわざ別の都市に住む家族に会いに行く人も多く、こうした行動が感染拡大へとつながっているように思われる。特にここ1ヶ月ほどはワクチン接種が始まり外出規制も緩和されたため、以前ほどの緊張感は見られず人の移動が目に見えて増加している。この他にも現与党である公正発展党(Adalet ve Kalkınma Partisi)が全国の支持者を集めて大規模な集会を開くなど、これまでの努力を無に帰してしまいかねない行動が大小至るところで見られる。
意外な一面
もう一つ驚いたことは、今回の渡航で筆者が差別的な体験をあまり経験していないことである。他地域に目を向けると、新型コロナウイルス感染拡大後に様々な国や地域で東アジア人に対する差別やヘイトクライムが発生しているというニュースや在住者の体験談が数多く見られる。トルコでもまた、新型コロナウイルス流行が始まった段階では東アジア人というだけで嫌味を言われたりすることがよくあったという。筆者も少なくとも道端で「コロナ」と言われるくらいのことはあるのだろうと覚悟をしていた。しかしながら意外にも現在のところ、予想していたような嫌がらせにはほとんど遭遇しておらず拍子抜けしている。そもそも外出機会が少ないことや、イスタンブルの中でもアジア人も含めて外国人が多い地区に居住していること、コミュニケーションをとる相手の多くが外国人慣れしている学生が中心であることがその原因であると考えられるが、それでも他地区へ行った際や買い物の際にも特にこれといった不愉快な目に遭わずに済んでいる。
とはいえこうした差別が存在していないわけではなく、他のトルコ在住者の差別体験などを聞くと、聞こえるようにわざと嫌味を言われることや街で口を押さえて逃げられるような事態に現在も稀に遭遇するとのことがあるという。筆者の場合、一度だけ離れた場所から罵声を浴びせて中指を立てる仕草をしてくる若い女性に遭遇したことがあったが、これくらいの頻度であれば平時でもあり得るので、新型コロナウイルス流行を受けての差別感情の高まりは他の地域に比べるとあまり無いように感じられる。
コロナ下での研究活動
渡航前からある程度は想定していたものの、新型コロナウイルス下での研究活動はやはりそれなりの制限を受けることとなった。筆者は史料調査のためにイスタンブルの大統領府オスマン文書館とイスラーム研究センターを利用しているが、いずれも利用時間や利用人数の制限を行っており、思ったように史料収集が進んでいない状況である。