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伊勢大神楽とコロナ禍の日本を歩く(後編)

2021.05.17

著者:神野 知恵(人間文化研究機構国立民族学博物館特任助教・人文知コミュニケーター、民族音楽学、民俗芸能研究)

アジア 民族音楽学民俗芸能研究

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同じく祭りが盛んな大阪府の堺市を廻る山本勘太夫組も、だんじりがなくなったのに何でお前たちは来るんだ、と地元の祭り人たちに咎められるのではないか、と出発前に心配していたが、行ってみると案外普段通りで、心配は無用だったと話していた。

本来ならば、だんじりや太鼓台に乗る若者、こどもを出す家では、安全祈願のため獅子に頭や衣装を噛んでほしいと言われたり、自治会からだんじり自体のお祓いを頼まれることもある。山本源太夫組では昔から古市を廻る際、各町内のだんじり組に祭りの祝儀を渡し、祭りの期間中に円滑に回檀させてもらうために義理を立てている。地域の人々の祭りに向かう熱い気持ちがあってこそ、この時期に伊勢大神楽が迎え入れられてきたのだともいえるだろう。今後、コロナによって地域の祭りの在り方が変わることで、そうした関係性がどのように変化するのかは注視しておかなければならない。

また、それぞれの地域共同体が抱え持ってきた問題がコロナによって顕在化したという話が全国で共通して聞かれた。例えば、少子高齢化により芸能の演者や神輿のかき手(担ぎ手)など、担い手となる若年層がおらず既に祭りが縮小傾向にあったり、少数の担い手に対して負担が大きくなっていたため、コロナをきっかけに中止になって正直ほっとした、という話が聞かれたという地域もある。世代やジェンダーによる見解の乖離も大きいだろう。伊勢大神楽と地域の関係性についても例外ではない。もともと先代の当主が信心深く、神楽を手厚く接待してきたが、若い世代が家を継いだり、地域外から嫁いだ女性が接待を担うようになることで、大きな負担に変わってしまう点は看過できない。コロナをきっかけに神楽の接待を辞める家が増える可能性は多分にあり得るといえる。

伊勢大神楽はなぜ廻り続けられるのか
地域の人々が先祖代々守ってきた鎮守社の祭りは中止になる一方で、なぜ伊勢大神楽はコロナ禍でも廻り続けることができるのだろうか。

第一に、神楽師たちが回檀をなりわいとしており、彼らの存在意義は家々を訪ねるところにあるため、「やめられない」という彼ら自身の事情があるといえる。村人の方から回檀や総舞を断ってくることがあっても、神楽の方から断ることはない、自分たちはとにかく行くのみだ、と神楽師たちは口をそろえて話す。まず、それが地域の祭りの動機や、開催決定のプロセスと異なるところであろう。

さらに、神楽師たちに話を聞いていくうち、伊勢大神楽と回檀先の家は一対一の関係性であり、その行為に関しては村全体では管理しにくいという点が、大きなポイントだということがわかってきた。例えるなら、僧が先祖供養のために檀家を訪ねて廻ることについて、村の自治会が口出ししにくいのと同じように、神楽の家々での獅子舞奉納を村全体で中止にするということはシステム上、非常に難しいのである。

写真12. 例年は家に上がってお清めを行い、神楽師にお茶などを
出している家だが今年は玄関先での奉納のみを希望した。
滋賀県愛荘町愛知川、2021年1月(筆者撮影)
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