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ゴールデンウィーク以降のコロナ対策
4月末から5月初頭は、ほとんどの組が、回檀の場所を移す時期である。例えば、森本忠太夫組は、滋賀を廻り終えて京都府亀岡市に移動となる。ゴールデンウィークを前に、新緑が目にまぶしく、田植えも始まる朗らかな季節だったが、テレビをつければ、1万人を突破したという国内感染者数や、海外でひっ迫する医療現場の惨状ばかりが映し出されていた。私は森本忠太夫組の番頭(事務局長的な役割を担う神楽師)のTさんに電話して尋ねた。
「えらいことになりましたね。これから亀岡の回檀どうするんですか?」
「どないしたらええと思う?良い方法があったら教えてほしいわ。」
Tさんは暗澹たる声で嘆いておられたが、数日後に再び電話があり、出発日を少々遅らせて様子を見ながら廻ってみるという。定宿にしている民宿からは問題ないという連絡をもらったこともあり、コロナ対策を万全にして廻り、自治会などから苦情が出たら桑名に引き返すことも検討するとのことだった。私は心から声援を送りたいと伝えながらも、さほど遠くない所にいるのに様子を見に行けないことを更にもどかしく思った。
森本忠太夫組はその頃にコロナ対策の方法を模索し、いち早く実践した。神楽師たちは旅の間は基本的に共同生活をしているため、一人が感染したら組全体が回檀を中止しなければならない。毎朝検温をして健康チェックシートをつけ、少しでも体温が高かったら現場に出ないこと、地域で何か尋ねられたらこの表を提示することを決めたという。マスク着用はもちろんのこと、アルコールスプレーを持って門扉開閉の際には必ず手指消毒の徹底を心掛けていた。
神楽師たちは普段家々を訪ねるとき、主人に声をかけ、初穂料と呼ばれる謝礼を受け取り、厄祓いの祝詞をあげ、新しい御札や返礼品を渡し、謝礼の金額を確認して奉納する獅子舞を決め、笛を吹き、太鼓を叩く、という一連の流れで仕事をしている。手の消毒をしたり、マスクを着脱したり、感染予防に配慮している旨を言葉で伝えながら1日100軒近くの家々を廻らなければならないというのは、心身ともになかなかの負担だろう。彼らはそのような状況に順応しながら、現在も回檀を続けている。