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「伊勢大神楽」は、西日本各地で家々を訪れて獅子舞を奉納することをなりわいとする人々である。本記事の前編ではコロナ禍においても、対策をとりながら毎日各地で厄祓いの巡行を続ける彼らの動向を紹介し、後編では伊勢大神楽と地域の祭礼との関係性や、その活動の特殊性について俯瞰的に記す。
家々を訪ねる獅子舞
様々な業界でリモート化が進んでいる現在も、他人の家を直接訪ねないと仕事ができない職種といったらどんな人々を思い浮かべるだろうか…郵便局員、宅配業者、ライフライン関連業者、引っ越し業者、訪問医療や介護の従事者などがまず挙げられるだろう。さて、そうした仕事のひとつに「獅子舞」が入ることを想像してみた方はいただろうか?
日本には今も、家々を訪ね歩いて獅子舞を奉納することをなりわいとする人々がいる。彼らは伊勢大神楽と呼ばれ、国の無形民俗文化財に指定されている。伊勢大神楽の担い手には、五つの組がある。三重県桑名市を拠点としているが、それぞれの組に属する神楽師たちは一年のほとんどを滋賀、大阪、福井、岡山など西日本各地の檀那場を廻る「回檀」の生活を送っている。今日も、彼らは誰かの家の玄関先で獅子舞を舞っているのである。
私はこれまで韓国の民俗芸能の研究をしてきたが、2016年からは旅する職業的芸能者の日韓比較研究を目指し、この伊勢大神楽に同行して各地をともに歩いてきた。2020年以降、コロナ禍による影響を受けながらも活動を続けてきた伊勢大神楽について考えたことを、ここで紹介したい。
