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コロナとの距離感:ポコットの幸福な状況
一方、ポコットはどうか、というと、少し様子がちがう。2020年7月時点においては、コロナを恐れる、恐れない、ではなく、そもそも実感として、コロナの接近を直接的にも間接的にも感じていない様子であった。そして、コロナの問題などわきに差しおいておかなければならないほど、かれらの生活は日常の幸福や心配事に溢れていた。
わたしの調査地のポコットは半乾燥地域であり、大雨季の前半の4月から5月にかけて、例年になく、よく雨が降った。そのため家畜3)が食べる緑(植物資源)が満ち、家畜の仔がよく産まれ、母家畜はミルクをよく出した。また近年活発化しているトウモロコシ農耕の今年の出来は素晴らしく、豊作が期待されている。
この大雨のせいで郡内のバリンゴ湖は増水し、南に隣接する農牧民チャムスの集落や畑が水没したり、水浸しになったりした。ケニア全体でも今年の雨量は多かったようで、過剰な雨量と日射不足で、農作物が不作の地域もあるようであった4)。しかし、バリンゴ郡北部のポコットでは、例年は乾燥した地域が大雨で潤い、逆に豊作となるようである。
また、今年は東アフリカのバッタ被害がかつてなく大きいと報道されている。しかし、バリンゴ郡のポコットにおいては、1月のトウモロコシ農閑期と、4月のトウモロコシが播種され、芽が出はじめた時期にやってきたバッタの大群は、ある地域からはたった一晩で飛び去るほど、短期間で消え去った。
軍が「銃狩り」を展開したことは、前回の記事の通り不幸な出来事ではあったが、およそ毎年のように発生する出来事でもあるため、人びとはある程度慣れていた。そして軍は去り、人びとは日常を取り戻し始めているのである。
そして、コロナ感染に関しては、国と郡の公式発表としては、7月現在、ポコットにコロナの感染は届いていない。もちろん、この公式発表が感染拡大の実態に即していないことは自明ではある。そもそも、バリンゴ郡だけでなく、ケニアのいくつかの郡では、検査のための機器や検査キット、そして技術者たちのいずれか、あるいはそのすべてが届いてない、ということが報道されている。検査がまずできないのだから、公表感染者数も増えようがない。ケニアで公式に確認された感染者数が1万人に届こうとしていた7月上旬時点の報道では、ケニア全体で推定される実際の感染者数は270万人であるとする調査結果が伝えられている6)。実際の感染者の数は、確認されている感染者の数をはるかに上回ることが推定されているのだが、いずれにせよ、7月現在、ポコットにはコロナは届いていない、というのが、公式の、そしてポコットの人びとの見解であった。
- ^ ポコットの主な家畜には、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ラクダがおり、フィールドの緑(植物資源)の多寡は、これらの家畜の生死に関わる。他の家畜としては、ニワトリ、イヌ、ネコがいる。
- ^ ナロック郡、トランス・ンゾエア郡、ビヒガ郡の知人に、このような話を聞いた。
- ^ 頭部を消化器官もろとも抜き取り、串に刺して、火で焼いて食べる。油で炒めて食べることも。大人ももちろん食べるが、とりわけ子どもたちが喜んで食べるらしく、身はもちろん、卵も絶品らしい。もし捕まえられるものであれば、一人で100匹でも200匹でも食べたいそうであるが、ただ、ひとつ前の写真のバッタの子どもは、苦みがあるため食べないそうである。
- ^ 参照元URL:https://www.thecitizen.co.tz/news/2-7-million-Kenyans-may-be-exposed-to-Covid-19–study-shows/1840360-5587636-15j0d29/index.html