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そして、現在
これまで、パキスタンにおいて新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた時期を中心に、私の個人的な経験に焦点を当てて描いてきた。その後のパキスタンでは、6月末に感染者数がピークに達し、それ以降は徐々にではあるが落ち着いてきている状況である。その1で記述した午後10時台のアザーンも、連日の説教も、2020年9月現在は流れていない。
そもそも調査村には感染者もおらず、一部では、「新型コロナウイルスなんてものはない、すべて政府の陰謀だ」と語られる有り様である。調査村の住民で、村内においてマスクを着用する人はピーク前後を含めても見たことがない。都市部ではまだマスクを着用している人は多いが、それでもピーク時に比べるとかなり減ったとのことである。
少なくとも村内では、ウイルスの感染拡大前の平穏が戻ったように感じている。一時期は避ける人も多かった、挨拶の時のハグも今では普通にしているし、村の近隣の町のバーザールも営業を再開している。バーザールでは、政府の規定に沿ってマスクをしていないと入れません、という張り紙をしている店が多いが、店員を含めて実際にマスクをしている人はかなり少ない。
村内において人と話しているときにも、ウイルスのことはあまり話題に上がらない。上がったとしても、「もうパキスタンにはコロナはない。我々の国はṣāf、清潔だ。」と語られることが多い。テレビでは11月頃に再び感染が拡大するだろうとも言われているが、現在の終息ムードはいったいいつまで続くのであろうか。私が帰国を予定している2020年12月には、どのような状況が待っているのであろうか。今後も状況を注視しながら、十分に気を付けて過ごしていきたい。