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その後、調査村に帰ってきてから、その1で出てきた友人K(22歳未婚女性)のもとへ行った。Kの母Eはカーストを超えて人付き合いをしており、周囲からの信頼も厚い(村ではカーストによる排他性が強い)。Kの家に入ると、中庭にKとE、そしてKの父方祖母Bと、客人女性2人がチャールパーイー(編み込み式ベッド)の上に座っているのが見えた(パキスタンの農村部の家では、家の敷地内に入ってすぐ中庭があるのが特徴的である)。家に入るなり、私は「バージー(お姉さんの意、ここではEに対する呼称として使われている)、私、けんかしてきたの!」と笑いながら言った。
すると、Eはとても神妙な顔をして、「どうしたの?何があった?」と聞いてきた。私が一部始終を説明すると、KとEはとても怒り始めた。ビデオを見せて、例の青年が親戚の子供だということが判明すると、さらに怒りが湧いたようだった。あんまりにも怒っているので、私が「そうやって私のために怒ってくれてありがとうございます」と言うと、「いや、これだけじゃないよ、明日少年たちの家に苦情を言いに行ってくる!」とEが言った。これには私も驚いて、「え、苦情?」と返した。すると、「悪いことをしたんだから、ちゃんと言い聞かせないと。」とのこと。「じゃあ、私も行って良いですか?」と聞くと、「いや、お前はいない方がいい。私が1人で行ってくるから。」とE。まさかそこまで深刻に捉えてくれるとは……と私が感じ入っていると、Eが別の話を始めた。
E「この前、C(ヒンドゥー教からイスラーム教に改宗したカーストに属する50代の女性、人々の家で掃除や牛の糞処理をして賃金を得ている。私も中庭の掃除をお願いしている。KとEはCに甘いミルクティーであるチャエや、ご飯をよく振舞っている。)が村の中を歩いていたら、Wの家の子供が、Cに向かってコロナコロナって言ったんだ。」
K「それを聞いて、私はまっさきにWの家へ行って、子供のことを叱った。とても悪いことだから。叱らなきゃだめよ。」
私「でもなんで、Cに対して言うんですか?私は外国人だから言う理由になるけど、Cには言う理由がないじゃない。」
E「わかって、からかっているんだよ。bad-tamīz(ひどい、の意)。」
苦情を言いに行く云々もびっくりしたが、Cがそんな扱いを受けていることにも驚いた。仕事柄、いろんな家に行っていろんな人と接するため、比較的感染の危険性は高いといえるかもしれない。しかし、村の人もマスクをしたり接触を避けたりしているわけではない。おそらくそういう問題ではないようだ。詳しくは聞けなかったが、Cのカーストのことが関係しているような気がしてならなかった。
その後、Eは本当に苦情を言いに行ってくれたようで、もうこの先このようなことは起こらないよ、と言ってくれた。そのおかげか、それ以降現在に至るまで調査村全域でインタビュー調査を行っているが、少なくとも新型コロナウイルスに関することで何か言いがかりをつけられたことはない。この意味においても、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかでフィールドワークを行う上で、私は恵まれた状況にあったといえるだろう。