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エチオピアにおけるコロナ禍:ボラナ社会とアサラ市の場合

2020.11.12

著者:大場 千景(アルシ大学人間社会科学研究科、文化人類学、口頭伝承研究)

アフリカ 文化人類学口頭伝承研究

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6 グミ・ガーヨで暮らす
ガーヨの地には私が長年調査をしてきた集落がある。そこに立ち寄って、ほぼ私の親族のような存在になっている村の人々に、ヤーの集落に小さな家をつくって、グミ・ガーヨが終わるまで氏族とガダの役職者たちと暮らす計画を伝えた。村の中でも懇意にしている女性たちやヤーの集落の女性たちに家づくりへの協力をお願いし、小さなドーム状の家を作ってもらった。家の中には、木を組み合わせて作ったベッドをしつらえてもらい、思った以上に快適な家ができた。素敵な住まいは、二日で出来上がった。

家 (2020年8月8日大場千景撮影)
このドーム型にブルーシートを被せたら完成である。
氏族のリーダーたちの家々の間、アカシアの木の下に建ててもらった。

定着初日に氏族の役職者の息子の一人が軍人を伴って私のコロナ陰性証明書を確認しにきた以外は、コロナ関連で私への警戒心はほとんど感じられなかった。ボラナは驚くべき情報共有能力をもっている。この二週間前、私は調査の布石として彼らがガーヨへ向かう道中で挨拶していたので、私がPCR検査をしてきたことも、ガダのリーダーたちが私に調査許可を与えたことも、そして、その後彼らの集落に何も起こらなかったことも、すでに情報として共有していたのだろう。そこで早速、氏族とガダの役職者たち、並びにボクやワイユと呼ばれる儀礼の執行者たちの計22人の家々を訪ねては、彼らの顔と名前、性格、仕事ぶり、人間関係を観察していった。さらに、彼らが行う紛争処理法廷開催の情報があれば、会議の場に入り込んで録音と観察を行う。また、氏族やガダの役職者たちは公の会議の前に秘密裡に何人かで意思疎通をはかろうとするので、その人間関係の動きを読みつつ、懇意にしている役職者たちにこっそりとその意思疎通の展開状況の聞き込みをする。八面六臂に動きながら情報を集めていかなければならなかった。

ヤーの住人たちの多くは、7月末の時点でもマスクすら持っていなかった。その後、その近くの町場や市場でのマスク着用の義務化が強化され、NGOや政府からマスクやアルコール、石鹸などの配給を受けながら、マスク所有者は増えていった。ガダの村にはグミ・ガーヨ開催に向けて、ボラナの各地から自分たちの問題を氏族やガダの役職者たちに訴えにやってくる人々が後を絶たなかったし、8月半ばからはさらにヤーの集落は滞在者を増やしていった。滞在者には感染者が増加中のケニアとエチオピアの国境付近地域やマルサビットやイシオロなどケニア北部のボラナもたくさん含まれていた。

滞在者は役職者たちがそれぞれ建てたドーム型の家にしつらえてあるいくつものベッドを何人かで共有しながら寝るか、家の外部に敷物をしいてそこで雑魚寝をしながら夜を明かした。彼らはいずれも到着初日は用心深くマスクをつけているが、いつのまにか外しており、いつも通りの密集密着の日常に戻っていった。政府の保健関係の部署の役人が爆音でコロナ警戒のアナウンスを流していても、NGOの職員が毎日見回りにきてマスクをつけるように、離れて座るように、直接指導しても、馬耳東風、暖簾に腕押しであった。ほとんど無意識であるが、マスクを着け離れて座る者は部外者としてみなされ、ボラナの日常である会議や家の中で密集密着の状態にある者たちは一連托生の仲間であるという連帯意識が生まれているようであった。郷に入っては郷に従えをモットーとする人類学者である私は、彼らと同じように過ごしていったので、彼らも私を一連托生の仲間として扱った。そんな感じで5000人ぐらいの人々が1ヶ月ほど密集密着していたのだが、幸い死人は出なかった。

慣習法宣言直前 (2020年9月9日大場千景撮影)
木の下に人々が円形になって集まっている。
中心にはガダの役職者や氏族の役職者たち。さらに各局の報道陣。
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