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私は、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)プログラム「在来知と生態学的手法の統合による革新的な森林資源マネジメントの共創」プロジェクトのメンバーであり、2019年8月からJICAによる長期派遣専門家 として、野生動物管理研究のためカメルーン東部州のある村に派遣されていた。
研究の目的は、地域住民の狩猟対象となる哺乳類、主にダイカー類とよばれる小型の偶蹄類(ウシのなかま)の、地域ごとの生息数を明らかにすることだ。ダイカー類は近年の商業的狩猟の高まりによって、個体群の維持が危険視されており、保全当局と地域住民の間の軋轢も強くなってきている。そこで私たちは、科学的方法と地域住民の持つ地域固有の在来知を組み合わせることによって、住民が主体的な管理の担い手となるような、野生動物管理システムを立案しようとしている。
ダイカー類の生息数を知るために主に私が用いる手法は、自動撮影カメラという、動物が前を通ると自動的にビデオを撮影する機器である。月の半分以上は村で雇った調査助手数名とともに森に入り、キャンプ地を毎日移動しながら、広大な地域に点々とカメラを設置していく。
風呂なし、トイレなし、歯磨きなし。一日の踏査が終わると、歩き続けて汗と土まみれになった身体を、村よりも格段に涼しい森のそよ風に当てて乾かし、ぼろぼろの登山靴を脱ぎ捨てて冷たい川の水で足を洗う。そのうちに、蛍がそこここで明滅をはじめる。調査助手の作ってくれたクスクス(キャッサバの粉を煮えた湯に入れ、杵でついた餅のようなもの)とトマトソースで胃を満たせば、あとは数千の虫の音に囲まれた、心地よい眠りだけが私たちを待っている。生態学調査は、修行であると同時に最高の贅沢でもある。