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カメルーン東南部の、熱帯林に囲まれた村で生態学調査を行っていた私は、実感を伴わないインターネットの情報だけから、新型コロナウイルス感染拡大の動向を見守っていた。変わらない村の暮らしと鬼気迫る文字情報のギャップに翻弄されながら、調査を中断し、9か月暮らした村を脱することとなる。
熱帯林に埋め込まれた村
今日も暑い。2020年2月、日本の人々がコートと手袋の中で凍えていた頃、カメルーン東南部の村で暮らす私は、Tシャツ一枚だけの体に汗をにじませていた。コンゴ盆地熱帯林の北西端に位置するこの地域では、12月から3月の間は乾季にあたる。雨はほとんど降らず、かといって毎日カンカン照りというわけでもない。車やバイクが未舗装の乾いた赤土を走れば、空気中に砂埃が舞い、路肩の草木を赤銅色に染め上げる。特に今年は、曇っていて風がなく、湿度の高い蒸し蒸しした日が多かった。
ただし乾季といっても、ここは水源の豊かな森のなか、水に困ることはない。私たちの暮らす調査ステーションから車を数キロ走らせれば透き通った湧き水が豊富に手に入り、村人たちも家の裏手から少し入った森の中で安全な水を手に入れることができる。
調査に出ていない時には、主にステーションの自分の部屋で、窓と戸を全開にしてすごした。水やコカ・コーラのペットボトルを飲み干し、気の遠くなるほど遅い衛星インターネットと格闘しながら、デスクワークをした。夕方には、ステーションのすぐ隣にある狩猟採集民バカの集落に飼い犬と赴き、村人としばらく雑談して、集落のはずれにあるムスリムの経営する小さな商店で、揚げドーナツとチャイをつまむ。普段とどこも変わらない、人口約千人の小さな村の人々の暮らしが、私の目の前にべたっと広がっていた。