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長引く封鎖と困窮する庶民
さて、このように非常に厳しいロックダウンを実施したフィリピンだが、ロックダウン開始から既に1か月を過ぎた4月17日現在でも、新型コロナの感染者や死者は残念ながらじわじわと増加している。筆者はロックダウンがまだ始まった比較的早期にフィリピンを出国したので、その後の事情は現地の知人とのSNSやメールを通じた知らせや、メディアでの情報に基づくのだが、それによるとフィリピンでは医療関係者にも複数の死者が出るなど、いわゆる医療崩壊に類するような状況も発生している。
また筆者に身近なところでは、筆者がフィリピン滞在時によくお世話になっている国立フィリピン大学のアジア研究センターでも、残念ながら死者が出ることとなってしまった。現地で有名な中国研究者であるアイリーン・バビエラ教授が新型コロナ感染症により亡くなったのだ。このニュースは筆者を含め世界のフィリピン研究者コミュニティに大きな衝撃を与えた。
こうした病死など感染症の直接の影響だけではなく、ロックダウンによるフィリピンの社会や経済への間接的な負の影響も甚大なものがある。すでにロックダウンの影響で大量の失業者がフィリピン国内で生じている。また自家用車などを保有しなかったり、そもそも十分なお金もないので、ロックダウン中に市場や食料店に出かけて普通に食べ物を買うことが難しい庶民も大勢でてきている。
こうしてロックダウンで困窮した人々には、政府が資金や食料を供出し、最終的には各地の地方自治体が食料の配給であるとか、一時支援金の支給の実務を担う責任があるとされている。しかし実際には、フィリピン各地で食料や支援金の配給がない例だとか、仮に配給されたとしても食料の量、ないし支援金の額が十分でない、などの声が上がっている。もしロックダウンが今後さらに長期に渡って延長されるようなことになれば、各地で困窮者がさらに増加し、最悪の場合には餓死者も出てくるのではないか、と危惧されている。
マレーシアの状況
さて、厳しいロックダウン措置を敷いているのはフィリピンの隣国マレーシアも同様である。筆者は、パンデミックが本格化した後、マレーシアの大学に所属する長年の知己の研究者らとメールなどで情報交換を続けている。それによると、マレーシアでも新型コロナ感染症の拡大と、それに対する防止策である事実上の都市封鎖で大学や関係する研究者に多大な影響が出ているのが現状である。
具体的に言えば、マレーシアではMovement Control Orders(MCO)と称される大規模な通行禁止・移動制限を含む事実上のロックダウン命令が実施された(その後、5月に入り地域によっては段階的に緩和)。大学も通常の授業実施はほぼ不可能となり、またマレーシアで今年予定されていた大規模な国際会議なども矢継ぎ早に中止を決めた。筆者も毎年、国際シンポジウムなどの学術交流の企画をマレーシアの大学等との共催で実施してきたが、今年度は具体的な開催日程はおろか、そもそも今年度中に開催可能かどうかさえ定かではない。マレーシア・サバ大学(UMS)に勤務する筆者の知人の教授も、外出禁止令によって大学の職場の同僚はもちろん、マレーシアの別の場所に住む自分の配偶者や子供とさえ会うことができないという不安な状況を語ってくれた。